2019年8月6日火曜日

【短期連載その9 収穫】

我が家から少し行ったところに20坪くらいの畑があり、そこで小さくて痩せたおじさんが毎日のように野良仕事をしています。朝、私が犬の散歩に行く時も、昼間に車で通りかかる時もいつも一人で畑にいる。もう10年以上同じような出で立ちで黙々と働いてみえるので私はこっそりゲームのNPCだと思っています。

ある日、三味線演奏のボランティアで近くの温泉施設に行った時、演奏を聴いているお客さんのなかにそのおじさんが居ました。どうやら一人で来ているようだった。その温泉施設には3回ほど演奏に行きましたが、そのうち2回おじさんと遭遇したのはなかなかの確率だと思う。首にタオルをかけ、お風呂セットを入れているであろうプラスチックの籠を傍に置き、畑にいる時より少しニコニコしていた。

で、半月ほど前、おじさんの畑の近くを通りましたら、おじさんの他に数名の人間が畑にいたので少しびっくりした。何事かと思ったら、どうもおじさんの畑で採れたスイカをもらいに来ているようでした。ある人は両手で抱え、ある人は軽ワゴンの荷室に転がし、またある人は手押し車に載せて喜んで帰っていくところだったのですが、そこにいる人皆、おじさんも含めて美しい笑顔でした。全ては補完された。私はこっそりミレーの絵だなと思いながら家に帰りました。

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